雨が上がって直ぐに日が照り出したので、一帯に染み込んだ水気がそこいら中を目に見えない煙となって漂っている。
 濡れて真黒になったコンクリートの高い壁に、葉のふさふさになった蔓が這い出している。滲む様な濃い緑がむせ返るのを感じた。
 向こうから烏が飛んで来て、黒い布が辻風に巻き込まれる様なおかしな調子で、私の腰よりも低い所を旋回している。
 あんなに低い所を飛んで大丈夫か知らと考える内に、丁度烏の飛んでいる真下にある溝から、ざくろに手足の生えた様なものが出て来た。
 烏はそれを待っていたらしく、翼を激しくばたつかせながら襲い掛かったが、彼は見事な体捌きで爪や嘴を躱すと、悠然とした足取りでその場を後にした。
 後ろから、私の足元を一匹の白い猫がいきなり駆け抜けて行った。
 さっきのあれを追い掛けたのだろうけれど、止した方が良いんじゃないかと思った途端に、向こうの方から「ぎゃっ」と言う猫の悲鳴が聞こえた。(了)